左右の陰陽
2005年9月13日(2009年11月10日加筆)
ツボというのは、身体正面真ん中の任脉(にんみゃく)と、身体後面の真ん中の督脉(とくみゃく)を除き、左右に同じ名前のツボがあります。たいがいの鍼灸院に行きますと、左右両方のツボに鍼をされたりすることが多いと思います。
表参道・青山・源保堂鍼灸院では、左右にあるツボを同時に両方使うことはありません。同じツボでも、左右どちらか一つに絞って鍼、またはお灸などをしていきます。当院以外の鍼灸院に通っていた患者さんが初めて当院の治療を受けるときに、鍼を身体の左右両側に刺さないことはどうしてか疑問にもたれることも多くあります。また、このコラムを読んでいる方の中にも、背骨の両脇に田んぼの稲穂のようにたくさんの鍼を刺している光景を見たことがある方もいらっしゃると思います。
当院では両方のツボを同時に使うことはほとんどないのですが、それは、同じツボであっても左右でツボの効用・作用に差があるからです。この左右の作用の違いは、古医書の世界では「陰陽」と呼んでいます。陰陽という考え方は、身体を読み解いていく基本となります。左右が陰と陽に分かれるのですから、ツボも左と右とでは作用が違うことが分かると思います。左右の陰陽の違いを区別しながら鍼灸治療をすることは、全身治療を標榜する東洋医学の哲学の基本でもあり、またその左右の陰陽のツボの使い分けが、治療の効果にも結びついていきます。
身体が壊れるとき、まず東洋医学では「陰陽の平衡が崩れる」と捉えます。健康なときは陰陽がお互いに拮抗関係を保ちながら、平衡を維持しています。しかし体調を崩すと、陰陽はどちらかに傾いてしまいます。これはシーソーで言えば、どちらかにより多くの負荷がかかり(もしくはどちらかが軽い)、平衡が保たれていない状態です。シーソーがこのような不均衡のとき、両方に同じ重さを置いてもシーソーは動きません。不均衡を平衡に戻すためには、浮いているほうに十分なおもりを置いてあげるか、下がっているほうを軽くしてあげる必要があります。このシーソーの単純な原理と同じように、身体が不調のときは、身体の陰陽の平衡が崩れているのですから、崩れた身体のバランスを平衡状態に戻すためには、左右を分けてツボを使用する必要があるわけです。左右両方のツボを同時に使用してみても、同じ力を加えているのですから身体は均衡を取り戻す反応を示してくれないわけです。
この左右を分ける一つの基準として、男女の陰陽というものがあります。これは陰陽論として東洋哲学の分野で分けられており、男性は陽で左、女性は陰で右となっておりますので、男性を治療するときには左のつぼを使い、女性は右のツボを使うということになります。これは左右の陰陽を分ける男女の見方の基本となりますが、さらに左右を分ける基準には、左右の作用の違いがあったり、患部(症状のある部分)の逆側のツボを使うという(巨刺の理論)ことなどもあります。このように陰陽という考え方は、一つの身体を見るだけでも様々な要素に分けることができます。このような左右の要素と身体の状態を加味しながら、左右のツボを使い分けていくことで、鍼灸治療の効果が高まります。
このような理由から、当院の鍼灸治療は慎重かつ的確に左右のツボを使い分けます。この使い分けは、身体を全体的に見つめる東洋医学の思想が背景にあり、そこには東洋哲学・陰陽論が根底に流れていることが分かると思います。

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鍼灸治療の効用・適応