鍼たま
2005年10月24日(2009年11月10日加筆)
万古の人々は、「やまとことば」には「言霊(ことだま)」が宿ると考えていました。
この言霊の思想は日本語に限らず他の言語にもあるようですが、我々の遠い祖先は、言葉というものを使用し始めて以来、言葉の持つ力を強く実感していたのだろうと思います。言葉を使うことによって、はじめて世の中を認識することができ、我とあなたもそこからはじまったのでしょう。幾千もの年月を経た現代においても、古い言葉は現在にも残り、現代においてもヒット商品のコピーライティングなどが重要視されるのを見ましても、現代においてなおも「言霊」の力は続いていると思われます。
この「言霊(ことだま)」という言葉にあやかって、今月始めた治療院日誌のブログのタイトルを『鍼たま』としました。『鍼霊』としたいところではありますが、それではあまりにも仰々しいこともあり、『鍼たま』としました。見た目も、発音も、柔らかくいいタイトルになったと満足しております。
鍼灸に使う鍼は、言うなれば「何の変哲のない銀の針金」にすぎません。髪の毛くらいの細さで、先を尖らせてあるだけです。そう言ってしまえばそれで終わってしまうどうってことのない道具です。しかし、その何の変哲もない針金が、古の鍼灸発祥のころから受け継がれてきた東洋医学の原典を頼りに、人体に応用していきますと、病を治癒する強力な道具に変化します。この大きな変化は、冒頭にも書きましたように、言葉が、使い方や使うときの思いで突然力を発揮する姿にも似ていると思います。誰が考え付いたのか、どのように考え付いたのかははっきり分からないのですが、人体を見つめる視点と、自然を見つめる視点が融合して、いつの頃からかこのようなシンプルな道具につながっていったのだと思います。
一説にはあの昔話の「一寸法師」は、鍼治療のことを寓話として物語風に伝えたものとも言われています。一寸法師は最後一寸の針で鬼に挑み勝利を修めるという物語です。これを鍼灸医学になぞらえてみてみますと、まず、現代的な検査が未発達な時代において、病は「邪鬼」と捉えられて恐れられていました。そしてその鬼を退治するために医療というものが生まれましたが、その治す手段の一つとして古来より鍼が重用され、中国から日本にもたらされました。最先端の文明を持つ中国から来た鍼は、当時の日本の人々にとっても不思議なものに見えたと思います。本の小さな細い鍼を身体に刺し、しばらくすると症状が治っていく様を見て、鍼とは全く不思議な、そして大きな力を持っているのだなぁと感心したに違いありません。「一寸法師」で語られている物語の一つの側面は、小さな鍼で、怖くて大きな存在に思われていた邪鬼という病気を治せる医療として頼りにされてきたことを示すものだと思います。
さすがに現代においては病の原因を「邪鬼」の仕業とは言わなくなりましたが、これだけ検査技術が発達してもなお、未だに神秘的な謎が多く残されており、現代医学的には解明されない病もあります。そういった中で鍼灸治療はこの二千年以上もの間、数々の変遷はあれども、根本は廃れずにしっかりと残って現代にまで受け継がれています。「鍼灸がなぜ効くか?」「鍼灸で使うツボとは何か?」という科学的証明はまだ完全になされているわけではありませんが、鍼で病が治るという臨床の積み重ねによる事実は、二千年以上の歴史の中で実証されているからこそ、今日にも受け継がれています。
このように鍼は臨床において、古代でも現代でもとても有効な手段であります。様々な地域に存在する伝統医療の中でも最も体系が整った医療でありますが、さらにこの鍼灸医療を有効にするものは、鍼を使う人、つまり施術者・鍼師の思いや気持ちではないかと思います。どのような職業でもそうかと思いますが、同じ道具を使っても、道具は使う人によってさまざまな様相を呈します。鍼灸の鍼についても例外ではなく、「医は仁術なり」と言われますように、施術者の態度や思いが鍼に込められると、鍼は一層力を増してくるように思います。一寸法師が鬼を退治したように、私も気持ちを込めて一つ一つ鍼をしたいと思っています。
そんな心の「たま」を伝えられるよう、そして鍼灸というものに馴染みをもっていただこうとブログを作りました。東洋医学・鍼灸のお話はもちろんのこと、鍼灸院の日常などもつづっていこうと思いますので、どうかそちらもご覧になっていただき、ご意見・ご感想をいただければ幸いに思います。
時代とともに鍼灸も電気通電を用いたり、指圧などの手技を取り入れたり、材質もステンレスが増えるなど、さまざまな変化をしていますが、表参道・青山・源保堂鍼灸院は、“源を保つ”という名前の通り、鍼灸医学の原典・古医書を基にした鍼灸の専門院として研鑽を続けていきます。
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鍼灸治療の効用・適応