第21回 散歩の効用(1)
2006年5月15日(2009年11月28日加筆)
以前表参道・青山・源保堂鍼灸院のブログで「散歩の効用」についてお話をしました。今回はそれを元にしてまとめてみたいと思います。
当院では日ごろの運動として散歩(あえてウォーキングとは言わず)を患者様にお薦めしています。それは一番手軽に出来る運動であり、東洋医学的に見てとても身体に心地よい運動であるからです。
まず、一般的なウォーキングと東洋医学的な歩き方の違いを述べていきます。
一般的に最近のウォーキング(ここでは区別するためにあえてウォーキングという言葉を使わせていただきます)では、かかとから入ってつま先で出て行く歩き方が推奨されています。しかし、かかとが地面を突いたときの衝撃は、直接膝に入ります。この衝撃は、続いて腰、腎、背骨、首という順で上まで響いていきます(これはベッドの上で横になっていただいて、かかとを叩いてみるとすぐに分かることですので、実際にやっていただけると納得しやすいと思います。)。 これは人間が二足歩行をするようになって出来た構造上の問題からくるものです。
一方東洋医学的な歩き方である散歩では、足を地面に着けるときはかかとから入るのではなく、つま先から入ることになります。つま先が先に地面に着いて、その勢いで地面を蹴りながら歩くことにより、かかとへの衝撃を和らげることになります。
東洋医学的な歩き方が有利な点は、地面からの衝撃を和らげるだけではなく、筋肉の構造上から見て、足の内側の筋肉を良く使うことにもあります。足の内側の筋肉を使うということは、外側の筋肉だけでなく内側の筋肉を使うことになりますので、がに股(O脚)の予防にもなります。そしてまた、内側の筋肉を使うということは、股関節の中にある長腰筋などを使うことにもなりますので、骨盤を正常に戻す作用もあるといわれています。肥満や体型の崩れの原因の一つには、骨盤が後ろに傾きすぎるということがありますが、つま先で歩くことはこれを予防、補正してくれる運動にもなります。
東洋医学的な視点で歩くことを考察してみます。
まず上述しましたように、かかとは腎(先天の気)に所属しています。かかとから入った衝撃は足を通じて腰に響きますが、この腰は腎に配当されます。そして腰からの衝撃が伝わる背骨もまた、脳脊髄ですので腎に配当されます。このように観ていきますと、かかとから歩くウォーキング的な歩き方は、腎(先天の気)を傷めることになります。これまでコラムやブログなどですでに何度も「先天の気」という言葉が出てきていますが、これは生まれた時にもらった自分の生命力みたいなものです。かとから歩く歩き方は、この先天の気を著しく消耗することになりますので、とても疲れるだけではなく、生命活動にとって大事な腎を傷めることにもなります。また、古医書では「腰は腎の府」と呼ばれており、腎の気を損なうことは腰痛の原因にもなります。その他古医書では、重い荷物を持って歩く時は特に腎を傷めると書かれておりますので、重いものを持ち帰るようなときは、特にかかとからの衝撃が入らないように気をつけて欲しいと思います。またがに股(O脚)の話で言いますと、東洋医学では骨は腎(水)によって主られており、また関節は脾(土)になりますので、土剋水という土が水をいじめる関係となり、関節を傷めることにつながります。
ではどのような歩き方がいいのか?と言いますと、それはつま先を使って歩くことです。足の五本の指を見ていただくと一目瞭然のように、足の親指は他の指に比べてとても大きいものです。これは、歩くという動作をするときに、足の親指に重心がかかるように歩いてきた人間の二足歩行の自然な力学的構造を示したものです。たとえば相撲や柔道などの格闘技においては、足のつま先、特に足の親指に重心がかかっているかかかっていないかで、その人のバランス力が決まり、勝敗に直結していきます。どんなに体重が重く、大きな人であっても、かかとに重心があっては踏ん張りが利かず倒れてしまいます。逆に体の小さい人でも、重心がつま先にありますと、とても大きな力を発揮することが出来ます。
これを東洋医学の視点で解説します。足の親指には、経絡で言えば肝経と脾経というものが通っています。この両者は先天の腎に対して、後天の気に深く関わるものです。つまり、生まれた後に補っていく自分の体力のことを意味します。肝臓は東洋医学では血(広い意味での血液)の調整をする臓器で、脾臓は消化力と消化したものを身体に巡らせる臓器です。この二つの臓器とつながる経絡が走っている親指を使う歩き方をすることは、身体的な効果でいえば、血の調整と消化力を高めることになりますので、身体の中の気・血・栄・衛の巡りを良くすることになります。これらを良くするということは、現代医学的に言えば、血液の循環、免疫力の向上などにもつながっていきます。
そしてこれも当院のコラムで何度かお話をしていますが、肝臓と脾臓の心の動きは「意思」です。つま先を使い、足の親指に重心をおいて歩くことは、意思を鍛えることにもなります。前述したようにかかとで歩くと先天を使ってしまうので、歩いた後の疲労は大きいものですが、足の親指で後天を使って歩いた場合は、その疲れを体は心地よく受け止めて、疲労度は少なくなります。
このように見ていきますと、東洋医学的に見た正しい歩き方で歩くことは、身体にとてもよいことが分かります。そのあたりのことを、また次回にお話したいと思います。まずは初夏の香りをかぎに、表参道の並木道を歩いてみたらいかがでしょうか。
資料
ブログ『続・鍼たま -表参道・青山・源保堂鍼灸院日誌-』
歩くときに使う足の経絡との関係
| 腎 | 先天 | かかと | 精 |
| 肝 | 後天 | 足の親指 | 血 |
| 脾 | 後天 | 足の親指 | 消化力 |
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散歩の効用(1)