第22回 散歩の効用(2)
2006年6月14日(2009年11月28日加筆)
ツイート
ある往診先の患者様に散歩をお薦めしたところ、次に往診に行ってみるとその方のうちにはルームランナーが置いてありました。「瀬戸さんに散歩がいいって言われたんだけど、なかなか歩く時間もないし、この辺は夜は真っ暗で怖いでしょ。これがあれば雨の日でも歩けるからね。」とおっしゃっていました。私はこれを見まして、いつまで続くかなと思っていたのですが、案の定次の往診をしたときには、既に部屋の隅っこにルームランナーが立てかけてあり、もうしばらく使っていないようでした。私から言うまでもなく、患者様から「いやーせっかく買ったけど、なかなか続けられないね~。」と恥ずかしそうにお話をしてくれました。
どうしてこの患者さんはルームランナーでの“散歩”が続かなかったのでしょうか・・・。もちろんその方の性格もあるかもしれませんし、よくある健康器具が辿る運命とも言えなくもありません。しかしそれだけではないと、東洋医学の智慧は教えてくれます。
まず「散歩」と言うものですが、これは原則「外を歩くこと」と考えていただきたいと思います。
外を歩いていますと、街や自然が発する音があちこちから聞こえてきます。例えば鳥がさえずる鳴き声や、車が行きかう音などがあります。聴覚以外には、風を感じたり、空気の温度を皮膚に感じますし、景色や街の風景を視覚に感じながら歩きますし、飲食店の前を通る時は美味しそうな匂い(嗅覚)がして、お腹が空いている時はそこで小休止をして味覚を楽しんだりもできます。このように、外を散歩するということは、聴覚、視覚、嗅覚、触覚、味覚という五感を使うことでもあります。また、通りをわたる時、車が急に出てこないかとか、今日の天気はどうなるかなと、先を予測するための第六感も働かせることになりますので、散歩とは、第五感から第六感までをフルに使うということになります。外を歩く散歩は、我々の身体が持っている機能をバランスよく身体全体で使うことであり、バランスよく使うということは、心身が心地よく発達すること、そしてそれは心地よい疲労で、心身ともに緩むことにつながります。
一方冒頭に挙げたように器具を使っての室内での歩きは、筋肉を使う運動に過ぎず、五感をバランスよく使う散歩とはその内容の濃さが異なります。行為としては同じ歩くという運動でも、散歩と室内歩きでは身体への安らぎがまったく違うものになります。
五感を働かせるということは、第六感につながっていくことですが、第六感とは言わば本能のようなものです。本能は危険なものには近づかないもので、また危機から逃れるとっさの行動を起こすものです。第六感を呼び起こすということは、身体を壊さない生活をするためにも、また身体を壊してしまった時でも、しっかりと自分を正しいところに引き戻そうとする自己治癒力とも関係してきます。五感を育む散歩を是非生活の中に取り入れて欲しいと思います。
このコラムやブログでも何度も出てきていますが、五感とは五臓とつながっているのが東洋医学の考え方です。つまり、五感をバランスよく働かせるということは、身体の五臓のバランスのよさ、心地よさにもつながっていきます。五感が使われ、五臓が安定してきますと、情志も安定してきますので、散歩はストレス解消のためにもとてもいい運動とうことが分かります。逆に、筋肉の運動だけの室内でのウォーキングは、どこか歩いた時間だけを争うような、消費カロリーだけを気にするだけで、五感をバランスよく使わない単調なものとなり、五感が均等に満足しないため、爽快さに欠けます。室内を歩くだけでは身体も心も面白くありませんので、冒頭に挙げた患者様のように、いつの間にかルームランナーが使われなくなるのは、東洋医学的な背景からしますと当然なことなのかもしれません。
人間の進化は、まず二足歩行から始まったといわれています。これは東洋医学的に見ても、天地の気を受ける姿勢にもつながります。人間が歩き出したそのときに戻って、今一度歩くことの大切さを味わって欲しいと思います。前回のコラムでもお話したように、つま先、特に足の親指に力を入れて歩いてください。肝臓と脾臓のバランスを整え、「意思」を磨き、そして周囲を見ながら歩いてみましょう。きっと今日から、周りの景色や匂いに新鮮な喜びを身体が感じ取ってくれると思います。
資料
ブログ『続・鍼たま -表参道・青山・源保堂鍼灸院日誌-』
歩くときに使う足の経絡との関係
| 腎 | 先天 | かかと | 精 |
| 肝 | 後天 | 足の親指 | 血 |
| 脾 | 後天 | 足の親指 | 消化力 |
参考文献・参考図書

散歩の効用(1)
『黄帝内経・素問』

