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コラム 東洋医学って何?
第16回〜第20回

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第16回
心の動き
2005年11月17日
第17回
甘いもの
2005年12月15日
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お肉
2006年1月15日
第19回
皮膚感覚
2006年2月19日
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くしゃみ
2006年4月11日
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コラム
『東洋医学って何?』

心の動き 2005年11月17日

 「とにかく、やってみなはれ。やる前から諦める奴は、一番つまらん人間だ。」
(『プロジェクトX リーダーたちの言葉』 南極越冬隊長 西堀榮三郎の言葉より)

 開院するときに、少々気弱になった時期があった。そんなときの自分を支えてくれたのはこの言葉だった。NHKの超人気番組である「プロジェクトX」の特別番組を何気に見ていたときに、心に響いてきた言葉である。物事は実行してみないと始まらないことっていっぱいあるんだなと、改めて感じ、どう転ぶにせよやってみなくては・・・と自分を奮い立たせてくれた言葉であった。
 このように人間が何かを始めるとき、我々の心の動きはどのような過程を踏むのだろうか。いったい東洋医学ではその心の動きをどのように捉えているのであろうか。そのあたりを考察してみる。
 東洋医学の最も大本になる『黄帝内経・素問・霊枢』の「本神論」「宣明五気編」などに、心・思考の構成が五臓の分類と共に散見できる。大きくまとめてみると下表のようになるのだが、この中で最も重要なのは心臓の「神」である。「神」といっても宗教でいうところの「神」ではない。「神」という言葉は医学書以外の多くの古典にも見ることが出来るもので、漢学者の間でもその解釈の仕方は様々である。ここではとりあえず「人間の心を動かしている摩訶不思議な無形の働き」と解釈してもらえばいいのだが、これが人間の思考の中心であり、思考全体を統括するものだと東洋医学では考えている。
 では「神」が心全体を統括する中で、いったい我々の思考はどのように変化していくのだろう。明代後期に李念莪という人によって書かれた『黄帝内経・素問・霊枢』の解説書『内経知要』という本には、この「本神論」の解説に思考過程を次のように説明している。

 意: 心が立ち上がりいまだに定まるところがない状態。
 ↓
 志: 意が決まって画然として変わらない状態。
 ↓
 思: 志が定まったといっても反復推し量る状態。
 ↓
 慮: 思いが終わらず追慕し憂疑展転する状態。
 ↓
 智: 慮った後は動くところ巧みなる状態。

 これは人が行動に移すまでの思考過程を本当に上手に表現したものだと思う。まず思いが始まり、それを逡巡し、そして最後は決断してそしてそれを実行に移すまでの過程が簡潔にまとまっている。そして意・志・思・慮・智にはそれぞれ五臓が割り振られており、肉体と心の動きをも全体として結びつけ、そして五行のどれもが欠けたり、過剰になってはいけないという東洋医学の視点を垣間見ることが出来る。さらに『黄帝内経・素問・霊枢』のほかの編では、胆のうがサポートして中正なる決断をすると述べている。
 石橋を何度も何度も叩いてみても、結局渡らなければ何にもならない。かといって性急に事を運びすぎても物事は成就しないこともある。その人が持って生まれた性格もあるのだろうが、もしも最近気力がない、集中力がない、決断が鈍っている、なかなか実行に移せない、というときなどは、五臓のバランスが微妙にずれていることも多々あります。鍼灸の「本治法」で性格を直すことは出来ませんが、治療によって崩れていたバランスが整うことで、快活に決断と実行ができる、そんな充実した毎日を過ごすための一助になると思います。

五行
五臓
五精 意智 精志
人間の心の動きを五行ではこのように分類している。そしてこれらを統括するのが心臓の「神」であり、それをサポートするのは中正の官である胆のうである。

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甘いもの 2005年12月15日
 
 表参道・青山・源保堂鍼灸院の周辺にはおいしいスウィーツの名店、カフェが目白押しである。しかし、この甘いものは体にとっては厄介である。美味しいゆえに、ぜひとも長く付き合えるように、このコラムを読んでいただき、甘いものとの付き合い方を一考していただきたいと思います。
 甘いものというとまず肥満を思い浮かべるでしょう。しかし甘いものの摂り過ぎが健康に大敵なのは、それだけではない。東洋医学的に見ると、甘いものは大事な「腎」を傷めることになるのである・・・・。
 それは、右の図のような五行の関係があるからである。赤い矢印に注目してください。これは「土剋水(どこくすい)」と呼ぶのだが、自然界で土が水を堰き止めるように、五行で土に分類される甘いものが、水である腎をいじめてしまう関係となってしまうのである。端的に言えば、甘いもので腎が壊れてしまうのである。
 それではその腎はどうして重要なのかということを説明します。腎には「先天の気」と呼ばれる自分の生命力が蓄えられている。その先天の気とは「精」とも呼ばれ、精気、精神の「精」にもつながり、また、腎は成長、発育、生殖、智力をも兼ね備えた重要な臓器と東洋医学では考えている。このような重要な臓器である腎が甘いもので壊されてしまうと、持って生まれた生命力が落ちることになり、身体全体の調子が狂うことになる。
 特に「精神」の「精」に関して述べてみる。最近ではテレビのCMや健康番組で「砂糖は脳の栄養源」という紹介がされたりもしているが、東洋医学的に考えると全くの逆である。精神の「精」を甘いものが壊していくのだから、脳の栄養どころか、脳の発育や脳の健康には良くない。疲れたときに甘いものを食べてほっとするのは、甘味によって脳が麻痺しているに過ぎず、けっして栄養が入っているわけではない。西洋医学的に見ても、脳の信号を送る伝達物質はアドレナリンやノルアドレナリンなどであり、これは砂糖と全く関係がないのは明らかなのだが、そのあたりは全く触れずに「脳の栄養源」という言葉だけが先行してしまっている。
 昔は甘いものは貴重品で、時々しか食べられなかったからこそ身体は適度な量の甘味を良い刺激として捉えられた。しかし現代のように何を食べても、何を飲んでも甘味が入っているような状況では、甘いものが過剰な刺激となって腎・精を傷めている。さらに冷たいものが増えることで、胃が冷えて、腎・胃ともに壊れてしまっているのが多くの人の状況ではないだろうか。
 ニートや引きこもりと呼ばれる最近の若年層の精神的な無気力は、このような甘いものの摂り過ぎからもきているのではないかと思われる。身体を壊すほど食べ過ぎて、美味しいものが食べられなくなるよりも、適度に付き合い、長く美味しいものと付き合うことのほうが人生が豊かになるのではないかと思います。

※ 五行・五臓・五味の関係は右表に載せたが、表の下にも記したように、剋の作用が強く出るのは特に土と水の関係である。

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鍼灸治療・東洋医学で使う土尅水の関係の模式図−(C)東京・表参道・青山・源保堂鍼灸院

五行
五臓
五味
五行・五臓にはこのように「味」が配当されている。しかしながら、「土剋水」のような関係が強烈に影響を出すのは他にはない。これは五行運用の妙であり、その妙を臨床に活かすのが我々の仕事の妙でもあると思う。

お肉 2006年1月15日

 前回の「甘いもの」に引き続き今回も食養生について。今回のテーマは「お肉」。
 とかく自然志向の方にありがちなのは、「お肉」を毛嫌いすること。「お肉を食べると血が汚れる」、「身体にお肉の毒素がたまる」といった理由でお肉を食べないという方(またはそのようなイメージをお肉に持っている方)がいる。確かにお肉だけを食べ、野菜をほとんど食べないというのでは問題があるが、お肉1に対して野菜を2、3倍食べればお肉の毒素は消えるので、バランスのいい食事をしていればそれほど毛嫌いする必要はない。むしろ常にストレスが多いこの現代社会においては、ストレスに抵抗するための力を肉体に保持し、補給するためにも、お肉というエネルギー源の摂取は不可欠になっている。
 それでは東洋医学では「お肉」をどのように捉えているのだろうか。ここでもまた原典である『黄帝内経』を参考にしてみよう。『黄帝内経・素問』の「蔵気法時論」の後半を参照してみると、以下のように列挙されている。

  五穀為養 (五穀=麦・黍・ひえ・稲・豆)
  五果為助 (五果=李・杏・棗・桃・栗)
  五畜為益 (五畜=鶏・羊・牛・馬・豚)
  五菜為充 (五菜=韮・薤・葵・葱・マメ)
  気味合而服之以補精益気。(気味=飲食物は合して之を服用するとことで、精を補い、気を益す。)

 最後の一行にあるように、飲食物は我々の身体を構成する栄養を取り入れる基本であり、食べることで身体が活動するエネルギーや身体の材料を補給するということを示しています。これは「医食同源」という言葉にも通じていくもので、東洋医学の基礎のうちの一つである。次にその一文の上にある4行を見てみると、そこでは飲食物を穀(穀物)、果(果物)、畜(お肉)、菜(野菜)と分類し、それぞれの飲食物が持っている作用を示している。今回のテーマである「お肉」の五畜の作用を見ると、そこには「益」とある。この「益」という漢字は「皿から水があふれる」ことを表現した文字で、「ます、あふれる、みちる」という意味である。つまり、お肉というものは、我々の身体にとって、基本となる体力に対して、さらに体力や抵抗力、勢いを益してくれる食べ物ということになる。
 このように、東洋医学では、お肉を拒否するものではなく、「益する」ものとして扱っている。
 実際に臨床の現場においても、患者さんの身体に勢いが足りないときにお肉の摂取をお勧めすると、次の機会にはその勢いを回復することをつぶさに見ることができる。そしてその勢いがついてくると、自己治癒力も増してくるために治療の効果も現れやすくなってくる。東洋医学の知恵は、身体の観察を積み重ねた実践・実用医学であることがここでも実感できるのである。
 このように「お肉」に対する偏見を少しでもやわらげようと書いてみたが、最後に気をつけていただきたいのは、ここに五畜(お肉)の分類だけでなく、五穀、五果、五菜が同時に列挙されていること。これは、どれも欠けることなくバランスよく食べましょうということを著してあるのであって、お肉だけを食べなさいといっていることではありません。バランスのよい食事をしていくことで、五畜(お肉)の持っている「益」という効果が出てくるということです。
 バランスの良い食事を心がけて、気力、体力のある身体を創っていきましょう。

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皮膚感覚 2006年2月19日

 小児鍼は肌に触れるようなやさしい治療であるが、治療中赤ちゃんは気持ち良さそうに笑いがこぼれることが多い。この笑顔は、身体が緩んで楽になったという、赤ちゃんからのサインである。また、一般の大人の治療をしているときでも、敏感な方では、お腹の診断をするときに手を置いただけでぎゅるるるっとお腹が動くこともある。これは、皮膚感覚と言うものが身体の内臓にも伝わっている証拠でもある。
 では、皮膚感覚は東洋医学ではどのように考えられているのだろうか?
 五行の分類表を見てみると、皮膚(皮毛)を主る(つかさどる)のは「肺」である。

五行
五臓
五主 血脈 肌肉 皮毛 骨髄

 では肺はどのようなことをしているのか?
 東洋医学では「肺は諸気を主る」と言っている。
 では肺が主宰してい「諸気」とは何であろうか?
 「気」という概念・言葉は古医書の中ではありとあらゆる場面で出てくる。気という文字が単独で出てくることもあれば、生気・宗気・真気・元気・原気・精気などのように、その気の用途によって様々な言葉が使われる。それぞれ使い分けをしっかり把握しておかないと、古医書の読み方を誤ってしまう。そんな「諸々の気(諸気)」を主宰しているのが肺なのである。この「気」という概念はとても把握が難しく、それだけで一冊の本が出来てしまうほどだが、わかりやすく言い換えれば「動き」「動力」「はたらき」といったものである(「気」という概念をこのように言い換えることは大変乱暴で、誤解を招きますので、あくまでここでは簡単な概念として説明するに過ぎません。詳しくお知りになりたい方は、東大出版社から出ている『気の思想』をお読みください。)。
 この動力やはたらきというものは、人間の身体でいえば本能的な感覚による動きに相当するものです。私達が無意識のうちにしている作業や動き・本能といったものは、全て肺の力によるものと考えていただければいいと思います。現代医学の解剖学的な用語と東洋医学の言葉を重ねることは時に誤解を招くので、ここではあえてそのようなことはしませんが、例えて言うならば、我々は階段を下りるとき、一段一段をいちいち確認しなくても、自然に足を動かして一段一段進むことが出来ます。これは、肺がうまく動力を生み出すことによって自然に出来る行為であります。このように、無意識に身体を統御するはたらきが、ここで取り上げている肺のはたらきです。
 以上の文をまとめますと、肺は皮膚に通じ、さらに肺は諸々のはたらきを主宰しているということです。これは、逆に言えば、皮膚を通した皮膚感覚は、人間の本能に通じるものです。本能は、生き抜こうとする自然の動きでもありますし、人間の情動に直接関わる身体感覚です。皮膚を通じたやさしいふれあいや愛情のこもったスキンシップは、我々の本能に安堵感を抱かせ、安らぎをもたらします。そしてその安らぎは本能や情動を健やかに育んでくれる心地よい刺激でもあります。また、昔から「あいつとは肌が合う。」と言うように、我々は皮膚感覚を通じて本能的に相手との距離感覚を定めてたのかもしれません。
 脳細胞が急激に発達していく幼児期において、この皮膚感覚は、生きていく本能を育てる重要な感覚になります。心理学の研究分野では、幼児期に親子の接触が少なかった子供は、幼児期だけでなく大人になってからも情動のコントロールができにくいという報告もあるそうです。
 今一度我々の皮膚感覚を見直し、皮膚感覚を育てることをしてみたらどうでしょうか。

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くしゃみ 2006年4月11日

 今年の春は思うように気温が上がらない日々が続いている。お花見や夜桜見学をして次の日くしゃみが止まらなくなった方も多かったのではないだろうか。私もそのうちの一人で、寒い日の夜に千鳥が淵で夜桜を見学し、うかつにも翌日はくしゃみを連発してしまった・・・。
 そのくしゃみであるが、東洋医学ではどのように捉えているのだろうか。
 『黄帝内経・霊枢』の中にある「口問第二十八」の「嚏(テイ)」の文字がくしゃみである。その本文では「陽気が和利して心に満ちて鼻に出る」と記してある。これでは分かりにくいので、清代の医家である張志聡氏の注を見て見ると、そこには「太陽之気と心気之気が相い合して、肺に出る」と書いてある。これにさらに解説を加えてみる。「太陽之気は膀胱に発するもので、心気は陽中之太陽である。この二つの気がお互いに交じわっていくと、相い合した気が体の上のほうで満たされていく。肺は心の蓋であるので、肺にその気が満たされていく。肺とつながっている竅(あな)は鼻であるが、たまった気が鼻にのぼってくしゃみになる。」とういうものだが、これが東洋医学でのくしゃみの解説である。つまりくしゃみと言うものは、体の中の血(心)、水(膀胱)の気が変動したもので、さらにそれが肺を通って出て行くので、気(肺)にも変動が及んでいるというものである。体の構成要素の基本である気・血・水(津液)が変動するのであるから、病の兆候でもある。さらにこのくしゃみの項目には、その兆候が現れる部位として眉を挙げている。この眉は膀胱の経絡が走っているところで、つまり水(津液)の状態のことを指している。くしゃみをしたときに津液の状態はどうなっているかをよく考察すべきだ、ということを示唆しているように思われる。くしゃみをすると、鼻水が出ることがあるが、以上を鑑みるに、鼻水が出るほどのくしゃみのときは、津液の変動が進んでいるので、さらに注意を要する。実際に鼻水が出るようなくしゃみをする時、我々の体はかなり冷えて風邪をひきやすくなっていることは、体験的にも実感できるところであろう。
 この「口問第二十八」では、他にしゃっくり、あくび、げっぷなど人体の生理現象を取り上げて解説している。口問とは口伝を意味するものなので、簡潔にかかれており、難解な表現も多い。一般の人が読でみても、分からない用語でいっぱいであり、我々鍼灸師が読む時でも、その深いところにある意味に気がつかずに通り過ぎてしまいがちなところでもある。
 くしゃみはその昔「くさめ」と発音されていた。これは、「くそくまんみょう」という言葉が省略されて「くさめ」となったものである。我々の太古の先祖は、くしゃみをすると気が漏れて魂までもが抜けてしまうとくしゃみを大変恐れていたそうだ。くしゃみをした後は魂が抜け出ないように、「くそくまんみょう、くそくまんみょう」と呪文を唱えていたそうである。「くそくまんみょう、くそくまんみょう」と長ったらしく唱えていたので間に合わないということで、更に「くさめ」に縮められ、それが「くしゃみ」につながっていく。
 くしゃみをして魂が抜け出ることはない。しかしながら東洋医学の古医書にあるように、くしゃみは病の始まりである。古代の人々にとって病にかかることは死に直結することだったろう。そう考えると、この「くしゃみ」という言葉の語源も大いにうなづけるのである。

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