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コラム 東洋医学って何?
第21回〜第25回

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第21回
散歩の効用(1)
2006年5月15日
第22回
散歩の効用(2)
2006年6月14日
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はり1本
2006年8月8日
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虚実と補瀉
2006年10月5日
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『東洋医学って何?』

散歩の効用(1) 2006年5月15日

 以前表参道・青山・源保堂鍼灸院のブログで「散歩の効用」についてお話をしました。今回はそれを元にしてまとめてみたいと思います。

 当院では日ごろの運動として散歩(あえてウォーキングとは言わず)を患者様にお薦めしています。それは一番手軽に出来る運動であり、東洋医学的に見てもとても身体に心地よい運動であるからです。

 まず、歩く時の注意なのですが、一般的に最近のウォーキング(ここでは区別するためにあえてウォーキングという言葉を使わせていただきます)ではかかとから入ってつま先で出て行く歩き方が推奨されています。しかし、この歩き方をしていますと、地面をけった時にかかとから入った衝撃は、まず直接膝に入り、続いて腰、腎、背骨、首という順で上まで響いていきます。これはベッドの上で横になっていただいて、かかとを叩いてみるとすぐに分かることです。これはまずは人間が二足歩行をするようになって出来た構造上の問題からくるものです。構造上から見てもう一つ分かることは、つま先で歩く時は足の内側の筋肉を良く使うことになります。内側の筋肉を使うということは、外側の筋肉だけでなく内側の筋肉を使うことになりますので、がに股(O脚)の予防にもなります。また、内側の筋肉を使うということは、股関節の中にある長腰筋などを使うことにもなりますので、骨盤を正常に戻す作用もあるといわれています。肥満の原因の一つに骨盤後に傾きすぎるということがありますが、つま先で歩くことはこれを予防、補正してくれる運動になるということです。
 これを東洋医学的な視点でみますと、かかとは腎(先天の気)に所属し、腰に入った衝撃は腎そのものに衝撃を加え、また、背骨は先天ですので、かかとから歩く歩き方は先天の気を傷めることになります。コラムやブログなどですでに何度も「先天の気」という言葉が出てきましたが、これは生まれた時にもらった自分の生命力みたいなものです。ですので、かかとから歩く歩き方ですと、この先天の気を消耗しますので、とても疲れることになりますし、大事な腎を傷めることにもなります。また、古医書では「腰は腎の府」と呼ばれており、腎の気を損なうことは腰痛の原因にもなります。また、特に古医書では、重い荷物を持って歩く時は特に腎を傷めると書かれておりますので、買い物の時などは特に気をつけて欲しいと思います。
 またがに股(O脚)の話で言いますと、東洋医学では骨は腎(水)によって主られており、また関節は脾(土)になりますので、土剋水という土が水をいじめる関係となり、関節を傷めることにつながります。
 ではどのような歩き方がいいのか?というと、それはつま先を使って歩くことです。足の五本の指を見ていただくと一目瞭然のように、足の親指は他の指に比べてとても大きいものです。これは、足の親指に重心がかかるように歩いてきた人間の二足歩行の構造を示したものです。たとえば相撲や柔道などの格闘技においては、足のつま先、特に足の親指に重心がかかっているかかかっていないかで、その人のバランス力が決まります。どんなに体重が重く、大きな人であっても、かかとに重心があっては踏ん張りが利かず倒れてしまいます。逆に体の小さい人でも、重心がつま先にありますと、とても大きな力を発揮することが出来ます。
 これを東洋医学の視点で解説します。足の親指には経絡で言えば、肝経と脾経というものが通っています。これは先天の腎に対して、後天と呼ばれます。つまり、生まれた後につける自分の体力です。肝臓は東洋医学では血の調整をする臓器で、脾臓は消化力と消化したものを身体に巡らせる臓器です。身体的な効果でいえば、血の調整と消化力を高めるので、身体の中の気・血・栄・衛の巡りを良くすることになります。これらを良くするということは、現代医学的に言えば、血液の循環、免疫力の向上などにもつながるわけです。
 そしてこれも当院のコラムで何度かお話をしていますが、肝臓と脾臓の心の動きは「意思」です。つま先を使い、足の親指に重心をおいて歩くことは、意思を鍛えることにもなります。前述したようにかかとで歩くと先天を使ってしまうので、歩いた後の疲労は大きいものですが、足の親指で後天を使って歩いた場合は、その疲れを体は心地よく受け止めて、疲労度は少なくなります。
 このように見ていきますと、東洋医学的に見た正しい歩き方で歩くことは、身体にとてもよいことが分かります。そのあたりのことを、また次の機会にお話したいと思います。まずは初夏の香りをかぎに、表参道の並木道を歩いてみたらいかがでしょうか。

(参考)ブログ『続・鍼たま -表参道・青山・源保堂鍼灸院日誌-』
      散歩の効用(1)
      散歩の効用(2)
      散歩の効用(3)

 
先天 かかと
後天 足の親指
後天 足の親指 消化力

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散歩の効用(2) 2006年6月14日

 ある往診先の患者様に散歩をお薦めしたところ、次に往診に行ってみるとその方のうちにはルームランナーが置いてあった。「瀬戸さんに散歩がいいって言われたんだけど、なかなか歩く時間もないし、この辺は夜は真っ暗で怖いでしょ。これがあれば雨の日でも歩けるからね。」とおっしゃっていた。私はこれを見て、いつまで続くかなと思っていたら、案の定次の往診では部屋の隅っこにルームランナーは立てかけてあり、もうしばらく使っていないようだった。私から言うまでもなく、患者様から「いやーせっかく買ったけど、なかなか続けられないね〜。」と恥ずかしそうにお話をしてくれた。
 
 どうしてこの患者さんはルームランナーでの‘散歩’が続かなかったのか・・・。もちろんその方の性格もあるだろうし、えてして健康器具が辿る宿命といえばそれまでであるが、それだけではない東洋医学的な理由があります。
 まず散歩と言うものですが、これは「外を歩くこと」と思ってください。外を歩いていますと、街の声や音があちこちから聞こえてきます。そして風を感じたり、空気の温度を感じ、そして景色を眺めながら歩きます。さらに飲食店の前を通る時は美味しそうな匂いがして、お腹が空いている時はそこで小休止をしたりもします。このように、外を散歩することは聴覚、視覚、嗅覚、触覚、味覚という五感を使うことであります。また、通りをわたる時、車が急に出てこないかとか、今日の天気はどうかなと先を予測するための第六感も働かせることになります。このように第五感から第六感までをフルに使うということは、我々の身体が持っている機能をバランスよく使うことになり、バランスよく使うということは心身が心地よく発達することにつながっていきます。冒頭に挙げたように器具を使っての室内での歩きは、筋肉を使う運動に過ぎず、五感をバランスよく使う散歩とはその内容の濃さが異なります。五感を働かせるということは、第六感につながっていくことで、これは本能のようなものです。本能は危険なものには近づかないもので、また危機から逃れるとっさの行動を起こすものです。これは身体を壊さない生活をするためにも、また身体を壊してしまった時でも、しっかりと自分を正しいところに引き戻そうとする自己治癒力とも関係してきます。五感を育む散歩を是非生活の中に取り入れて欲しいと思います。
 このコラムやブログでも何度も出てきていますが、五感とは五臓とつながっているのが東洋医学の考え方です。つまり、五感をバランスよく働かせるということは、身体の五臓のバランスのよさ、心地よさにもつながっていくわけです。五感が使われ、五臓が安定してきますと、情志も安定してきますので、散歩はストレス解消のためにもとてもいい運動とうことが分かります。逆に、筋肉の運動だけの室内でのウォーキングは、どこか歩いた時間だけを争うような、消費カロリーだけを気にするだけで、五感をバランスよく使わない単調なものとなり、五感が均等に満足しないため、爽快さに欠けるわけです。冒頭に挙げた患者さんの‘散歩’が続かない理由は、このような東洋医学的な背景があったのです。

  人間の進化は、まず二足歩行から始まったといわれています。これは東洋医学的に見ても、天地の気を受ける姿勢にもつながります。人間が歩き出したそのときに戻って、今一度歩くことの大切さを味わって欲しいと思います。
 前回のコラムでもお話したように、つま先、特に足の親指に力を入れて歩いてください。肝臓と脾臓のバランスを整え、「意思」を磨き、そして周囲を見ながら歩いてみましょう。きっと今日から、周りの景色や匂いに新鮮な喜びを身体が感じ取ってくれると思います。


(参考)ブログ『続・鍼たま -表参道・青山・源保堂鍼灸院日誌-』
      散歩の効用(1)
      散歩の効用(2)
      散歩の効用(3)


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はり1本 2006年8月8日

 先日本屋さんに行ってみると、新書のコーナーに『はり100本』(竹村 文近著・新潮社新書)という新書が平積みされているのを見かけた。中身を読んでいないのでこの本の内容について触れるつもりはない。ただ、この本の題名である「100本」から察するに、私がやっている本治法とはとても対照的な、治療方法なのかなと推測しました。と言うのも、この本の題名を借りて言うならば、当院の本治法は「はり1本」で行われる治療であるからです。
 本治法は、身体全体の状態から「証(しょう)」と呼ばれる治療方針を導き出すことから始まります。このとき、患者さんの身体を東洋医学の診断方法で診断していき、今その人がどのような身体にあるかをみていきます。そしてその本治法をするのに必要な「証」が決まると、使用するツボが二つ決まります。「はり100本」に比べたらたった2つのツボと思われるかもしれませんが、全体の調整を主にして症状を解決していく本治法にとっては、この二つのツボで十分なのです。逆に言えば、このときに使用する二つのツボ以外は、あまり使う必要がないのです。
 当院の本治法は、この二つのツボを中心にして一本の鍼で身体を調整していきますので、「はり1本」と呼ぶにふさわしいと思います。
 どうして使用するツボがこれほど極端に少ないのでしょうか?
 それは当院(古医書医学の世界=東洋医学)ではこのように考えているからです・・・。
 例えば暑い夏、仕事が終わった後に飲むビールはとても美味しい。とくに一杯目の味は格別に美味しいものです。しかし、そんな美味しいビールでさえも、二杯、三杯と杯が重なるにつれて美味しさの鮮度が落ちていき、ビールの味はどこへやら・・・。そして次第にビールにも飽きてきたりします。
 このように、我々の感覚には感受性があり、ある刺激に対しての反応には反応の始まりとピーク、そして終息というサイクルがあります。今ビールの喩えで説明しましたが、ビールだけでなく、同じように様々な刺激に対してこのような反応のサイクルがあり、ツボも同様の反応を示します。つまり、ツボもこのビールと同じように、一番初めに刺すツボが一番効くのであり、そしてツボを使えば使うほど、身体のほうは反応(自己回復力・自己治癒力の活性化)は刺激に対して鈍っていき、治療全体がぼやけてしまうことになります。一見すると鍼がたくさん刺されている姿を見ると、すごいことをしてるなと思うかもしれませんし、それだけで治るような気がしてしまうかもしれません。しかしこのような人間の身体の持っている刺激に対する反応を考察してみますと、治療に必要なツボの数は、闇雲に多くしてはいけないことが分ります。そして本当に治る治療としての鍼灸医療であるならば、一回の治療で使用するツボの数は少数に限定する必要があると私は考えています。
 西洋医学は症状に対しての対処療法、それに反して東洋医学は全体を診る全体治療と言われています。しかし、多くの鍼灸師や他の東洋医学関連の症例などを見てみますと、患者様からの症状に対して常套といわれるツボや患部に鍼をするだけで、“全体治療”というキャッチフレーズとは裏腹に、対処療法に拘泥しているものが多いようです。東洋医学本来の全体治療を掲げるのであれば、やはり全体を診る力は必要です。そして全体を診る力があってこそ、使用するツボが見えてくるのです。そういった意味で、私は「はり100本」よりも、「はり1本」にこそ、本来の鍼灸医療の真髄があるのだと思っています。

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虚実と補瀉 2006年10月8日

 我々人間は定温動物ですが、この定温を維持するために、暑い夏は汗を出し、寒い冬は毛穴を閉じて身体が外界の変化に対応していきます。このように、我々の身体には体温だけではなく、身体の様々な場所における機能や条件を一定に保つはたらきがあります。この身体に備わった一定に保とうとするはたらきのことを、現代医学の用語では「恒常性維持機能(ホメオスタシス)」と呼んでいます。
 この恒常性維持機能は自律神経で行なわれていますが、自律神経失調症と呼ばれる病名がつく場合は、この恒常性維持機能が狂ってしまうために、外界に対しての適切な対応が出来なくなり、身体は様々な不調を訴えることになります。明らかな病名がつかないけども不快な症状が多数ある場合などは、この恒常性維持機能に微妙な変調が起きていることが多いと思われます。
 こうした恒常性維持機能と鍼灸の作用を考えてみたいと思います。
 右の図を見てください。この図の中の「正常な範囲」というのが、恒常性維持機能能でいつも一定に保たれている“健康の幅”です。暑さや寒さ、その他の不快なストレスなどに対抗して身体は常に揺さぶられているわけですが、その揺さぶりの中でも、ある一定の幅を持った正常な範囲に納まっていればその人の身体は“健康”は保たれているわけです。
 しかし熱が出て体温が亢進したり、また夏の暑さで食欲が低下したりしますと、身体は正常な範囲を逸脱します。右の図に示した○で囲った部分が逸脱した部分ですが、まさにこの○のところが病気ということになります。これを糖尿病などに喩えると、正常な範囲から出てしまったところが糖尿病であり、正常な範囲の線上やその近くにある場合を、糖尿病予備軍といって、早めの対処が必要な要注意グループとなります。



健康の幅と鍼灸治療・東洋医学の補瀉の概念図−(C)東京・表参道・青山・源保堂鍼灸院
 東洋医学では、異常な部分で亢進した状態を「実(じつ)」と呼び、異常な部分で低下した状態を「虚(きょ)」といいます。この二つをあわせて「虚実(きょじつ)」といいますが、この虚実は、身体を把握・分析する時の一つの東洋医学的な視点となり、かつこれを元にして治療方針が決まっていきます。
 実という状態は正常な範囲よりも亢進しているので、亢進して過剰になった部分を取り除かないといけません。この取り除く治療方針を「瀉(しゃ)」と呼びます。その逆に虚の場合は機能が低下しているのですから、不足している部分を補う必要があります。そのため、この虚に対して行なわれる治療方針を「補(ほ)」といいます。
 このように、実に対しては瀉で対応し、虚に対しては補で治療をして全身を調整していくことが、すなわち正常の範囲、つまり健康の幅を回復すると言うことになります。現代医学の用語で言えば、この「虚実」に対する「補瀉」という治療を施すことは、身体が失った恒常性維持機能を元に戻してあげるということになります。そして恒常性維持機能が回復するということは、自律神経の働きも整うということにつながっていき、さらに自律神経が整うということは、病気が治っていくということにつながっていくわけです。身体の「虚実」を把握して、銀の鍼で「補瀉」という治療を施すことが、本治法であり、これは身体の「陰陽」を調整し、患者さんが持っている自己治癒力を回復し、患者さん自らの身体によって治っていくことが、鍼灸治療の原点なのです。
 そしてもう一つ重要なのは、正常な範囲と病気の境界線のところです。この境界線のところを、東洋医学では「未病(みびょう)」といいます。未病とは、「未だ病まざるもの、しかし病になる兆しがある」という意味なのですが、東洋医学の原典である『黄帝内経』では、鍼灸術者はこの未病の段階で病を察知し、治していくことが良医(良い医者)であると述べています。つまり、東洋医学が予防医学といわれるのはこの病態把握の仕方にあるわけです。
 このような東洋医学の根本的な身体観、治療観をしっかりと認識しておかないと、患者様に接した時にほんとうの東洋医学的な治療をしているとはいえません。単に「このツボは全身にいいから」「このつぼは免疫にいいから」というだけでツボを使うだけでは、虚実の把握と適切な補瀉がありませんので、本当の鍼灸の姿とは言えません。
 以上のように、虚実・補瀉、そして陰陽という概念が存在する東洋医学が、自律神経失調症や不定愁訴症候群、慢性疲労症候群など、身体の機能の不調による症状に効果が出ることが分るかと思います。

注)このコラムは一般的な方を対象にしたものです。今回は身体の陰陽、虚実、そして補瀉というものを分りやすく理解していただくために、簡単な部分を説明しました。実際の臨床では、陰陽や虚実をさらに細かく分けたり、またそれらを把握するための診断方法や東洋医学の五臓の生理学があることを最後に付け加えておきます。

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健康の幅 2006年11月5日

 前回は『虚実と補瀉』と題してコラムを書きました。今回はそのとき使った図をさらに変化させて、“東洋医学的に見た健康の幅”を見て行こうと思います。

 まず前回と同じ図を右の一番上に載せておきました。この図1の波線のように、我々は常に外からの刺激や内面の心の状態によって常に揺れ動いています。揺れ動いていながらも、我々の身体には、より正常な状態へ戻ろうとする恒常性維持機能(前回のコラム参照)や、自己治癒力が備わっているおかげで正常な範囲の中を確保することができます。しかし、その正常な範囲を逸脱してしまうと、半健康・半病気という状態になり、身体の不調や不快感が出てきます。そしてそれがさらに進んであまりに逸脱しすぎ、その状態が続いていくと、正常な範囲に容易に戻ることができなくなり、病気になってしまいます。病気や痛みが出てきて我々は初めて健康のありがたさを実感できるものですが、できれば病気になる手前で早く処置をしておきたちものですし、できれば普段から健康な状態を維持して、病気になることもなく、正常な範囲を保っていたいものです。

 前回のコラムでは、この正常な範囲を超えたものに対して「補」「瀉」という概念で鍼灸治療を施すと言うことを述べました。今回はこの図を使いながら、鍼灸治療の効果を“健康の幅”という切り口で見ていきます。

 まず図2を見てください。これは図1の状態と比べると正常な範囲が狭くなっています。ストレスや疲れが溜まっていたりすると、我々の身体は抵抗力が下がってきます。抵抗力が下がってきますと、それだけ自己治癒力(恒常性維持機能)が下がるわけですから、正常な範囲も狭まります。こうなりますと、図1の時と同じような身体変化が生じた場合、図1のときよりも正常な範囲が狭くなってしまっているために、その範囲を逸脱しやすくなり、逸脱した部分、つまり病気になる(不快症状や不調な)部分が増えることになります。たとえば昨年までは花粉症があまり出なかったのに、今年は何故か花粉症がきついとか、去年に比べて毎年風邪をひきやすくなっている、といったように、今までと同じ条件なのにも関わらず症状が出たり、症状が重くなったり、不快感が増えたりする場合などは、このように正常の範囲が狭まっている可能性があります。つまり、自己治癒力が下がり、内的にも外的にも環境の変化に身体が順応できなくなっていると言うことで、病気にもなりやすいということが言えます。
 このとき鍼灸治療は、正常な範囲を逸脱した部分を取り除くために身体を診査し、治療を施していきます。しかし、ここで重要なのは、逸脱した部分である“症状だけを追いかけない”と言うことです。病気の症状だけを追っかけてしまうと、狭くなった正常な範囲を治療していないわけですから、身体の根本は何ら変わらずに、病にかかりやすい図2の状態はそのままです。あくまで症状は身体が出している表現であって、病の根本ではありません。
 病院に行って症状を訴えると、訴えた症状の分だけ薬が増えると言われますが、これは症状だけを診ているのでこのようなことが起きるわけです。しかし、病院の薬の処方の仕方を批判することは、多くの鍼灸師にはできないとも思います。それは、多くの鍼灸院では、鍼灸師に症状を訴えれば訴えるほど鍼の数・使用するツボの数が増えていく・・・というのが現状で、薬の数がツボの数に変わっただけだからです。本日のコラムでお話したように、症状だけを追っかけるような鍼の仕方では、治療を受けたときは多少軽くなることもありますが、根本的なところを治療していないので、やはり対処療法に過ぎず、病を治すことにはなりません。
 
 一方表参道・青山・源保堂鍼灸院が施術する「本治法(ほんちほう)」は、症状を追いかける対処療法ではなく、正常な範囲を回復する根本的な治療方法です。そして本治法を受けていますと、狭まった正常な範囲が回復して症状が取れるだけではなく、図3のように正常な範囲を広げることにもつながりますので、正常な範囲が広がりますと、図1と同じ身体の変調の波が来た場合でも、身体の抵抗力が強まっているわけですから、今まで病になっていたところも病にならなくなるわけです。もちろん悪い食生活の影響や、慢性的な状態を長い間放置して自己治癒力が下がっている状態などが続いておりますと、正常な範囲を広げる力が弱っていることもありますので、その回復する過程は患者様の状態により個人差はあります。しかし、大抵の場合、自己治癒力が確実に上がるので、正常な範囲を回復・拡大して病に強い身体になっていきます。それに加えて、内外の環境の変化への順応力も高くなりますので、身体が揺れ動く変調の波自体が図4のように小さくなっていきますので、快活に生活することができます。
 当院で「本治法」を受けている患者様の表現では、この効果を「気がつくと疲れにくくなっていた。」「気がつくと腰が痛いのがなくなっていた。」というように、自然と気がつかないうちに治っていく実感を得ることが多いようです。

  このように健康の幅である正常な状態を広げていくこと、そして内外の変化に対応できるようにしていくことが、本来の“東洋医学的な健康の幅”、“東洋医学の健康観”、“鍼灸治療の本来の治療と効果”なのです。
 先日ニュースで「2008年度から健康基準の数値が変わる」というのを読みましたが、この数値の変更で健康診断を受診すると、異常を指摘される割合が男性で98%、女性でも92%に上るそうです。これは、本来人間が持っている自己治癒力である正常の範囲、健康の幅を数値の操作で画一的に固定化してしまったものからくる弊害です。数値だけの変更では健康の幅は計れませんし、数値を操作しただけでは治療にも、はたまた本来の目的であるはずの予防にも結びつかないことを、この記事そのものが端的に示しているのではないでしょうか。人間の健康の幅は本来数値で決めるものではなく、東洋医学の思想のように、数値的な境界線を持たないそれぞれの患者様が持つ正常の範囲を把握することだと思います。そして、その身体の根本を観ていくという身体観を、治療に活かして身体を調整していくことが大切であると思います。
 表参道・青山・源保堂鍼灸院が施術する「本治法」は、このような東洋医学の健康観に根付いたもので、身体が本来もっている“健康の幅”を回復・維持していく治療方法です。病にかかりにくい身体を作り、根本を調整していくことは、本来持っている自分の能力を人生に活かしていくことにつながります。東洋医学本来の鍼灸治療は、このように奥が深く、その意義もまた深遠であり、人間の人生や生活を豊かにする奥義ではないかと思います。

(関連情報)
表参道・青山・源保堂鍼灸院の治療の特徴
表参道・青山・源保堂鍼灸院 ブログ『続・鍼たま』
(カテゴリー「東洋医学・東洋思想・健康」内に情報があります。)       


健康の幅と鍼灸治療・東洋医学の補瀉の概念図−(C)東京・表参道・青山・源保堂鍼灸院
図1


健康の幅と鍼灸治療・東洋医学の補瀉の概念図(狭いもの)−(C)東京・表参道・青山・源保堂鍼灸院
図2


健康の幅の図(広いもの)−(C)東京・表参道・青山・源保堂鍼灸院
図3


健康の幅の図(広く安定したもの)−(C)東京・表参道・青山・源保堂鍼灸院
図4

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