『患者のための医療情報収集ガイド』
著者 北澤京子
発行 ちくま新書
価格 756円(税込み)
お薦め度 ☆☆☆☆☆
病気になったとき、どの治療方法を選択するかは、患者さん本人の意思による時代ですが、正しい医療情報を収集するための方法が詰まった一冊です。
患者さんと医療者の間には、医療に関する情報に対してかなりの隔たりがあります。以前はこの隔たりがあるために、医療に関してはパターナリズム(父権主義=医療の専門家である医師に全てを委ねる一方的な関係)が当たり前でした。しかし最近ではインフォームド・コンセント(説明と同意)という考え方が普及し、患者さんと医療者は対等であり、どんな医療を受けるかという選択は、患者さん自身にあるという時代に入りました。これは、患者さんが納得のいく治療方法を選択できるという点では、画期的な転換だったと思います。しかしその一方で、患者さんは、不慣れな医療情報を収集し、それを分析するという自主性とその手段を持たなくてはいけなくなったという意味でもあります。
普段健康であれば病気や医療の情報は全く気にしません。しかし、病気はいつやってくるかわかりません。その病気の襲来のとき慌てないように、病気についての知識や、治療方法の選択をするための情報収集手段は、学んでおく必要があると思います。本書の著者も語っているように、人間の身体は不確実性をもっていますので、必ずしも同じ治療が自分にも効くとは限りませんが、その治療方法を“自分で”選択するところに、自分の生命への尊厳があり、そこに肯定的に生を選択する“納得”が生まれるのだと思います。
本書はタイトル通り、医療情報を収集するためのガイドとなっています。「英語の論文まで読むのか!」と思われるところもありますが、逆に言えば、健康・医療・病気の情報が、一般の人にも手にしやすい時代になったということで、かなりの専門的な知識まで徹底的に収集できるということで、ここまで細部にわたるガイドはありがたいものです。
東洋医学・鍼灸医学を実践するものにとっても、このガイドはとてもありがたいものです。“東洋医学・鍼灸医学だから現代医学の知識は知らなくてはいい”というのは、時代の要請に沿っていません。病気の中身を知ること、健康情報をより分ける方法など、医療としての東洋医学・鍼灸を目指すものとして、本書は、心得ておきたい医療情報の収集法が系統立てて多数掲載されています。
『うつ病 -まだ語られていない真実』
著者 岩波明
発行 ちくま新書
価格 756円(税込み)
お薦め度 ☆☆☆
鍼灸院には様々な症状を抱え方がいらっしゃいます。ときにうつ病の方もいらっしゃいますが、最悪のケースを想定しながら治療を進めていくべきではないかと、警鐘を鳴らされる一冊です。
「うつ」「うつ病」という言葉が普通に一般的に使われるようになって久しい。これにより、気軽に周りに相談もでき、一人で悩まなくなる人も増えたのではないでしょうか。うつ病の早期発見・早期治療につながる素地ができたとも言えます。
しかしその一方で、“うつは心の風邪”というくらいの軽い認識でしかない人も増えているのではないでしょうか。この傾向は一般的な人ばかりではなく、専門家にとっても同様で、軽く扱われているうつ病に対して著者は警鐘を鳴らしています。著者は、うつ病の25%は妄想を伴い、自殺や犯罪といったものにまで発展する可能性を秘めており、決して“心の風邪”程度に楽観視をすることはできないと説いています。
本書はアーネスト・ヘミングウェイが自殺をするまでの晩年の様子から始まり、死に至ることもありえるうつ病の実態を伝えています。本書に挙げられているその他の実例は、極端な例なのかもしれませんが、最悪の場合、うつ病はとても危うく、真剣な取り組みもときに必要であると痛感させられます。
次の第二章「うつ病の薬物療法」は、うつ病に対する薬の説明で、うつ病の薬の種類、薬の利き方、処方の選択、安全性と副作用などが書かれており、まとまりがあって参考になります。
第三章は「気分変調症(ディスサイミア)」が取り上げられています。本書によると、気分変調症の概念は、軽度の抑うつ気分、生活全般にわたる興味の消失や、何事も楽しめないという気分が2年以上続いている状態を指し、疲労感が持続したり、「自分には価値がない」という考えや、自己嫌悪、罪悪感などを伴うことが多いという。以前は性格によるものと思われていたようですが、うつ病の薬が効くということで、うつ病の一つとして捉えられるようになったということです。
この後は、「うつ病は増えている」「抗うつ薬は危険か?」「自殺者の国」という章が並んでいます。
本書の著者は臨床家で、著者自身、臨床からかけ離れた精神科医を批判しており、臨床を大事にしているという点では、とても好感が持て、また、時に批判めいた記述もありますが、全体的には冷静で、本来のうつ病の怖さや、うつ病の最悪のケースを伝えていると思います。本書を通じて一貫しているのは、「うつ病は心の風邪なんかではない」という考え方で、うつ病は死の危険もある怖い病気であるということで、それを頭に入れながら読む本ではないかと思います。
よって内容は、従来の病気としてのうつ病のお話しと、それを取り巻く薬のことなどが本書の主題で、最近のプチうつのようなものは書かれておらず、この両者の線引きや分類も書いてありません。また、うつ病の方にどうやって接してあげたらいいかということも書いてありません。これはおそらく、著者自身がより深刻なうつ病を扱う臨床家で、その怖さを垣間見ているからこそ、その記述が中心にならざるをえず、決して闇雲にうつ病の危険性を煽ったりしているのではないと思います。
本書は最近多く見られる軽いうつ傾向を解説する本ではなく、より深刻な病気としてのうつ病を取り上げたもので、うつ病へのアドバイスを書いたものではないので、うつ病の方が読む本ではありません。周りにうつの方がいたり、仕事でうつのかたと接することがある方などが、最悪のケースを想定してお付き合いをする必要があると思って読んでおくものだと思います。一般的にうつ病を知りたかったり、うつ病の分類を知りたい方には不向きだと思います。
鍼灸院には様々な症状を抱えた患者様がいらっしゃいます。中にはうつを訴えて来院される方もいらっしゃいます。そんな患者様に接するときは、鍼灸治療を過信することないよう、時には専門医への受診も優先する必要もあると、心の片隅に入れておくべきだと本書を読んで思いました。




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